2022/12/06 19:29

 ストリングのストランド数は、古の知識においては、強い弓には多く、弱い弓には少なく、とされていました。これは、強度に限界のある当時のストリング素材において、当然の対応方法でした。ストランド数を多くすれば、できあがるストリングは太くなり、ストランド数を少なくすれば、ストリングが細くなることも当然の結果です。しかし、使用するノックのサイズは「L」か「S」しかなく、「L」サイズでさえコンパウンドボウがポピュラーになって普及した規格ですので、基本的にはストリングの太さは「S」サイズノックに合わせるよう、サービング糸の太さを調整することになります。

 ところが、近年、ストリング素材の進化により、素材の強度不足を原因とするようなストリング破断は皆無となりました。唯一、問題となるのは、クリープと呼ばれる恒久的な伸びの発生によりチューニング特性が変化してしまうことです。ストリング原糸の、わずかな伸び縮みに伴うアロースピードの加速効果を弾性率というようですが、弾性率については以前Angelが解説していましたので、そちらを参照してください。クリープが発生してしまったストリングは、弾性率も低下してしまうため、アロースピードの加速効果は望めませんが、変化のない安定感は出てくる可能性があります。少し前のワールドカップで、記憶が不確かな部分はありますが、インドの選手で黒ずんでささくれだった(たぶん、もともとは白だったと思うのですが)ストリングを使用している方がいましたが、これは多分こうした安定性を期待して使用していたのではないでしょうか。
 コンパウンドボウでは、ストリングの他、複数のバスケーブルも組み合わされるため、これらの伸びはピープの回転問題を含め、チューニングに大きく影響を与えることになります。そのため、コンパウンド用のストリング原糸では古くからベクトラン素材、まったく伸びの無いケブラー繊維を素材に混紡する手法が多く用いられていましたが、最近、こうしたベクトランを混紡したストリング原糸で作製されたリカーブ用ストリングを使用する方を多く目にします。
 リカーブ用ストリング原糸の代表的な素材であるダイニーマも次々に改良を重ね、最近ではほとんどクリープの影響を無視できるSK90系統のダイニーマも登場し、伸びの無さもベクトラン混紡原糸とほぼ同等にまでなってきていますが、これらのストリングに共通していえることは、しっかりとしたチューニングがなされていないと、周囲のアーチャーをびっくりさせるほど大きな発射音を立てるということです。自身の弓のティラー、ブレースハイト等の調整に自信のない方は、これらのストリングを使用するべきではありません。
 どうしても、伸びの無いストリングを使用しなければならない理由がないのであれば、弾性率によるアロースピードの加速効果のある、SK70系統のストリングこそがアーチェリーストリングにベストフィットだと思いませんか。使用期間に伴いクリープも発生しますが、当方も推奨しているとおり、ストリングは消耗品であり、定期的な交換で解決できます。最新素材 ≠ 最適 であることにご留意ください。